6   海神に期する歌
 
 
 
 
   惑星連邦漁業組合地球支部では、SP
   Y としての取り沙汰こそしなかったけ
   れど、要注意人物の扱いで 《耳》 を指
   名手配したのである。 《耳》 のせいで
   使いものにならなくなる漁夫の数があ
   まりにひどかったからだ。 取りわけて
   あの船乗りのケースは凄惨であった。
   船乗りは年下の生娘とばかり交尾を重
   ねて、 どの星の生きものですらもない
   半狂人を孕ませ続けたのだ。半狂人の
   嬰児は、月経の血ばかりではなく、母
   の形相と化した娘っ子にも出どころが
   不明の、 ミドリの蒸留液に身を浸して
   いたのだ。船乗りは年が己れの娘ほど
   もちがう彼女たちと性行為をもった動
   機として、 『あのオンナどもは、 俺が
   生まれたころにさえ、まだ精子の一疋
   ですら無かったからだ』 とフォーカス
   の合わない二個の眼ん玉で供述した。
   理由はハッキリとしていた。 おそらく
   その船乗りは、 あの《魔の沖合い》と
   呼ばれ、恐れられている、海の恥部で
   怪物の歌う歌を聴いてしまったに相違
   ないのだ。 歌の種類にもさまざまあっ
   て、なかには 『眠け醒ましの歌』 なん
   ていう非常に有り難い旋律(戦慄?)
   も存するには存するのだ。だが、その
   男の症状から断定できるだに、怪物は
   もはや 『海神に期する歌』 をあらんか
   ぎりの大聲で叫ぶ段階に突入している
   のだ。 怪物は、《還=境》 の大いなる
   突然変異に直面して、海神に助けの悲
   嘆を届けようとしているのだろう。 し
   かし、現実は 《無=情》 である。 そも
   そも、地球の海には、太古から、海神
   は君臨していなかったのだ。 海神は、
   《海王星》のお茶の間で、 TVを永劫
   の時間、享楽していたのだ。海神はコ
   メディ番組を好む。海王星の人びとた
   ちを笑わせる為には、コメディアンを
   使用する必要はない。地球からさらっ
   てきた怪物を処刑する模様を生放送す
   れば、ゲラゲラ笑い続けるのだ。 だか
   ら、 「あの」 星の水域から、歌が消え
   る日も近いのだが、そんな事はつゆ知
   らず、 船乗りたちの 《耳》 は切り落と
   されて、 『海神に期する歌』は 《灰燼
   に帰する歌》と化す。
 
 



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